◎無症状胆嚢結石 (無症状胆石症) をどうする? ◇胆石症の頻度
エコーによる集団検診で 4 〜12%、解剖で 16.4%、無症状胆石症は集
団検診で 55%程度。病院受診者で 20%程度
◇無症状胆石症は 10 〜 20年 の経過で 10 - 20% が有症化する。
◇胆嚢癌の発生
胆嚢癌の 50 〜 80% に結石を合併、胆嚢結石の 2 〜 3% に胆嚢癌を合
併。ただし無症状胆石症の胆嚢癌の発生率は 0 〜 1% だろう。
純コレステロール胆石に胆嚢癌の合併が多いとされ、直径 3cm以上の胆
石症は直径 1cm以下のものに比べ発癌しやすいとされている。
◇どうする?
無症状胆嚢結石はエコーで観察しつつ、胆嚢壁や胆嚢機能に異常がみら
れたら胆嚢癌の合併をも考慮して腹腔鏡下胆嚢摘出術を第一選択する。
◎消化吸収障害・吸収不良症候群・低栄養状態
1.分類
1). I型:本態性吸収不良症候群
(1). セリアック・スプルー (Celiac sprue)
本邦では数例・小麦粉 (グルテン) アレルギー・小腸絨毛の萎縮・全
栄養素の吸収障害
(2). β-リポ蛋白欠損症
アポ蛋白-β の合成障害・遺伝性・カイロミクロンができない
2). II型:症候性吸収不良症候群
(1). 腸管実効吸収面積減少型吸収不良症候群
a. 腸管術後障害
※短腸症候群:残存小腸が 1m以下・在宅中心静脈栄養法の適応
※回腸終末部切除:ヴィタミンB12、胆汁酸などの吸収障害・胆汁酸
の胆汁酸の大腸流入による下痢・逆流性小腸炎
b. 腸管の広範な病変
※小腸広範病変、回腸終末部病変:腸結核・クローン・アミロイドー
シス後天性免疫不全症候群
c. 小腸原虫症
※ランブル鞭毛虫症等
d. 血管性
※放射線性腸炎、慢性腸間膜血流不全
e. 薬剤性
※ネオマイシン (粘膜障害) 、コルヒチン (細胞内輸送障害) 、
PPI (ヴィタミンB12 吸収阻害)
(2). 腸管運動亢進
※カルチノイド:セロトニン放出のため腸管の運動亢進し消化吸収不
良を起こす
(3). 小腸細菌叢の異常増殖 (腸内細菌異常増殖症・盲係締症候群)
小腸内容物の鬱滞により腸内細菌叢の異常増殖し消化吸収不良を起
こす
※腸管癒着・小腸狭窄・偽性腸閉塞・盲係締の存在・強皮症・小腸憩
室症胃酸の低下・胃切除 (B-II)・アミロイドーシス等
※脂肪吸収障害、胆汁性下痢、ヴィタミンB12 吸収障害、粘膜障害を
起こす
(4). 内分泌異常
※糖尿病 (胃排泄時間延長)・甲状腺機能亢進 (小腸通過時間短縮)
3). III型: 消化吸収障害性吸収不良症候群
(1). 食物と消化液分泌のタイミング不調:胃切除 (B-II) など
(2). 乳化障害:胃切除 (B-I) など
(3). 膵液分泌不全:膵切除後・慢性膵炎
(4). 消化酵素活性化障害:エンテロキナーゼ欠損症 (トリプシノーゲン活
性化不全)
(5). 消化酵素不活化
(6). 小腸内水分過多
(7). 胆汁分泌不全:肝臓細胞障害、胆汁鬱滞等
(8). 胆汁酸プールの減少
4). IV型:刷子縁膜病
刷子縁膜水解酵素の活性低下あるいは酵素欠損、吸収上皮細胞膜
上の輸送担体の欠損による。
※スクラーゼ欠損症、乳糖不耐症、ハートナップ病、ブルー・ダイ
パー症候群
2. 疫学
膵外分泌障害 (30-40%) > クローン (10%) > 小腸切除 (10%) > 膵切除 (10%)
スプルーは少ない。50% は手術後の消化吸収障害である。
3. 診断
1). 既往歴と症状
(1). 50% は手術後の消化吸収障害である
(2). 下痢・脂肪便・体重減少・貧血・無力倦怠感・腹部膨満・浮腫・消化管出血
(3). テタニー・骨軟化症 (脂肪酸がカルシウムと結合して排出されるため)
(4). 出血傾向 (脂溶性ヴィタミンの吸収障害でヴィタミンK 欠乏)
2). 血液生化学検査
(1). 貧血・低蛋白血症・低アルブミン血症・低コレステロール血症・血清鉄低下
(2). 大球性貧血:ビタミンB12、葉酸の吸収障害
(3). PT延長 (肝機能障害がない):ビタミンK吸収障害
(4). 低カルシウム、低リン、ALP上昇:ビタミンD 吸収障害
(5). 低カリウム:慢性下痢
(6). 低蛋白血症:蛋白質の消化吸収障害?・蛋白漏出性胃腸症?・蛋白摂取不足?
a. 蛋白質の消化吸収障害、蛋白摂取不足では RTP (rapid turnover protein、
レチノール結合蛋白・トランスフェリン・プレアルブミン) が容易に
低下する。
b. 蛋白漏出性胃腸症では著明な低蛋白血症があっても RTP は比較的保たれる
(7). 低r-gl 血症:腸管リンパ組織過形成
4. 検査法
1). 吸収試験
(1). 脂肪の吸収試験
a. ズダンIII染色
b. 便中脂肪量の推定
c. 胆汁酸吸収試験:ウルソデオキシコール酸を経口投与し血清胆汁酸分画測定
(2). 糖質の吸収試験
a. D-キシルロース試験
b. 乳糖負荷試験
c. グルコース負荷試験
d. 呼気水素試験
(3). 蛋白質の吸収試験
a. 糞便中窒素量測定
b. 膵外分泌機能試験 (PFD)
c. α1-AT のクリアランス測定:低蛋白血症の鑑別に重要
蛋白漏出性胃腸症では内因性蛋白である α1-AT が便中へ排出され
ることを利用
2). X線を用いた検査
(1). 小腸造影:小腸の狭窄・拡張・癒着、盲管の存在、巨大憩室、短腸症
候群
腫瘍、クローン病
消化管運動異常(強皮症・アミロイドーシス・糖尿病)
強皮症:食道・十二指腸の拡張
スプルー:粘膜異常
腸リンパ管拡張・Whipple:ケルクリングひだの拡張
アミロイドーシス:初期は顆粒状、進行すると竹の節状変化
(2). 腹部CT
ガスと腸液の貯留:腸内細菌異常増殖症
小腸壁の肥厚:リンパ腫
リンパ節肥大:リンパ腫・Whipple
後腹膜腫瘍
3). 内視鏡検査
スプルー:絨毛萎縮・顆粒変化 (正常な) の減少
Whipple:脂肪の転送障害による顆粒状変化、黄色調変化
腸リンパ管拡張:白色絨毛
4). 病理学的検査
スプルー:絨毛萎縮
Whipple:絨毛破壊・上皮内脂肪蓄積
PAS 陽性物質沈着マクロファージ
α-chain病:形質細胞の浸潤
アミロイドーシス:アミロイド沈着
腸リンパ管拡張:絨毛内・粘膜下層に著明なリンパ管拡張原虫の診断
5. 消化吸収障害・栄養障害の治療
※消化吸収障害の判定
高 度:糞便中脂肪量が 30g/日
中等度:11-29g/日
軽 度:6-10g/日
※栄養障害の判定
高 度:血清蛋白・血清コレステロールがともに異常に低い
中等度:高度と軽度の中間
軽 度:血清蛋白・血清コレステロール正常下限または一方が少し低い
1). 食事療法:消化吸収障害が軽度の時
低脂肪・高蛋白 (1.5g/kg/d)・高エネルギー (40-50Kcal/kg/d)
2). 補液・輸血・各種栄養素・ビタミンの非経口投与
3). 経腸栄養:栄養障害が中程度以上の時、消化吸収能がある程度保たれて
いれば栄養チューブを用いて 40-50Kcal/kg/d を投与。
a. 成分栄養剤:アミノ酸・ブドウ糖またはデキストリン・電解質・ビタミン
・微量元素
・長期にわたれば脂肪乳化製剤 (必須脂肪酸)
b. 半消化態栄養剤:カゼイン・デキストリン・米油 (や ヤシ油)
c. 高カロリー (エネルギー) 輸液法
4). 特殊療法
a. 二糖類吸収療法:ラクターゼ欠乏症・乳糖不耐症
・乳糖含有食品の制限、またはラクターゼ製剤を 1g/乳糖10g で投与
b. 小腸内細菌異常増殖症
・テトラサイクリン 1.0g/日、またはメトロニダゾール 1.0g/日
・効果は一時的なので根治のために手術できる場合は考える。
c. 膵性消化障害
・吸収不良症候群に対しては消化酵素製剤を常用量の 3 〜 5倍量を投与
・例えばパンクレアチン 30-40g/日 が必要、過酸には制酸剤を投与
d. 胆汁酸性下痢 (回腸終末部切除等)
・胆汁酸を吸着するコレスチラミンを 10-15g/日 を投与
・脂肪転送障害 (腸リンパ管拡張) には長鎖脂肪酸を制限し、中鎖脂肪酸
を投与
◎ヘリコバクター・ピロリ (Helicobacter pylori)
1. 疫学、感染ルート
a. ヒトにおいて最も頻度の高い慢性感染症の一つ、小児期に感染し成人にな
るとともに陽性率が減少。
b. 全世界に広がり、全ての年齢層の胃・十二指腸疾患と関係。
c. 水系感染が主体で上水道の普及とともに減少、文明国で減少。
2. 胃粘膜障害の機序 (異所性化生性胃粘膜上でも増殖、腸上皮化生部には存せず)
強いウレアーゼ活性、活性酸素、サイトトキシン、サイトカインが関与。
但し、十分に分かった分けではない。
3. ヘリコバクター・ピロリ感染と病態との関連
a. ヒトの慢性活動性胃炎と密接に関連
b. 本菌の除菌により胃消化性潰瘍の再発が抑制される。
c. 本菌と胃癌との関連は今後の課題。
◇若年者胃癌との関連が指摘されている
◇胃悪性リンパ腫 (MALT lymphoma) との強い関連性の報告
4. 除菌治療
◇ PPI + アモキシシリン (またはクラリスロマイシン)
◇最も最近の短期治療法
PPI + クラリスロマイシン + ファシジンの常用量を 1W併用。
90% 以上の除菌率
◇ PPI + クラリス + アモキシシリン (またはフラジール) が最近の主流。
5. その他
a. H.P の検出
・正常 : 3.8 %
・びらん性胃炎 :55 %
・萎縮性胃炎 :97 %
・胃癌 (MALToma) :95 %
・胃潰瘍 :93.8%
・十二指腸潰瘍 :93.3%
b. H.P は胃粘膜にしか寄生しない:バレット食道・胃粘膜化生部の DU・メッケル
胃粘膜化生の生じた直腸・(胃でも腸上皮化生部には存在せず)
c. H.P 感染 --> 表層性胃炎 --> 萎縮性胃炎 --> 腸上皮化生が自然歴か?
d. H.P と胃癌 (直接証明は H9/10月現在 出来ていない。)
・2 〜 6倍の胃癌発症率
・H.P蔓延地域と胃癌発症率が相関
・胃癌 の穂殆どに H.P の検出
・早期癌の手術後に除菌すると胃癌発症が押さえられる
e. H.P とリンパ腫 (感染率 85% のインドにはリンパ腫が少ないという矛盾もある)
・HP抗体陽性ではリンパ腫が増加。
・胃リンパ腫で H.P 検出率が多い。
f. 除菌治療適応
胃潰瘍・十二指腸潰瘍・萎縮性胃炎・早期癌・MALToma は除菌すべきだろう。
◎胆嚢ポリープ性病変の鑑別診断 (特に超音波診断について)
※エコーの導入により胆嚢ポリープ性病変は 7%位の頻度で認められる
※1cm 以上の病変は必ず精査を行い手術適応を決める
※エコーで広基性隆起があれば、胆嚢癌、過形成性ポリープ、腺筋腫症を考える。
胆嚢壁肥厚があれば癌。
(以下の順に頻度が高い)
1. コレステロールポリープ
※胆嚢頚部や体部に好発し多発性。
※1cm 前後の大きさになると cholesterol polyp with hyperplasia の形態をとる
◇肉眼的
・黄色の桑実状表面、糸状の細い茎を有する有茎性ポリープ
◇エコー
・糸状の細い茎を有する有茎性ポリープで表面は不規則な桑実状内部エ
コーは高エコーの粒子の集合。
・cholesterol polyp with hyperplasia では内部に点状高エコーの混
在した等 〜 低エコー腫瘤となり、過形成性ポリープや腺腫との鑑別
が必要
※※大きさが 5mm以下の有茎性ポリープで表面不規則、内部高エコー
のものはコレステロールポリープと考えてよい。